IWC【ポルトギーゼ】の魅力を探る
こんにちはスリーク新潟の飯田です。
今回は久しぶりにIWCのことを書きたいと思います。
ちょっと長くなってしまいましたが、ご覧ください。
IWCの魅力は何か?と問われると、1つは500年先を見据えたブランドであるということが挙げられます。
機械式時計は一生モノという言葉を耳にしたことがある人も多いと思います。
確かに機械式時計は不具合が生じても修理(修復)可能な場合が多いですし、交換パーツが無くとも旋盤機で代替パーツを作って直そうとすることも可能なものです。
しかし、時計メーカーが自社の時計を永きに渡って修理を請け負うか?というと殆どのブランドがそうではありません。
交換パーツの在庫が無くなってしまった場合は修理を断るケースも多いのです。
そのような中、いかなる年代の物でも修理を行うと公言しているブランドがあります。
それが
・パテック・フィリップ
・オーデマ・ピゲ
・ヴァシェロン・コンスタンタン
・ジャガー・ルクルト
・IWC
以上の5社です。
この5ブランドの中でもIWCは比較的、私達一般の人でも手の届きやすい価格帯で製品を作っています。
なぜならば、その背景としてはIWCは超高額モデルも製造していますが、パイロットウォッチやダイバーズウォッチなど実用時計も広く手掛けるブランドだからです。
時計は工芸品と実用品の狭間にある物だと思うのですが、時計に限らずあらゆる物は実用品寄りになればなるほど余計な装飾は施さず機能のみを求めるるのが一般的です。
IWCの時計もまた道具としての実用モデルを古くから手掛けているブランドですので価格帯も比較的手に入りやすいモデルが多いのです。
IWCの歴史
IWCの創業は1868年
創業者はフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズ(F.A.ジョーンズ)。
創業時は若干27歳の若者でした。
会社の正式名称は『International Watch Company(インターナショナル・ウオッチ・カンパニー)』。
その頭文字をとって『IWC』と呼ばれています。
ここであまり疑問を持つ人はいないかもしれませんが、
スイスは母国語がなく、地域によってドイツ語やフランス語などが使われております。
なぜ、スイスブランドなのに社名が英語なのか?
それは創業者F.A.ジョーンズがアメリカ人で、IWCはアメリカ市場をターゲットに設立された会社だからです。
ジョーンズは合理的な生産体制の『アメリカ式製造システム』と『スイスの伝統的な職人技術』を組み合わせることで質の高い時計を大量に生産できると考えました。
そしてそれらの時計をアメリカに輸出してアメリカで販売しようと考えていたのです。
そこで、スイスに渡ったジョーンズが目をつけたのが
スイスの中でもドイツ国境に挟まれたドイツ語圏の地域。
なぜ、この土地に目をつけたかというと、
この土地にはライン川が流れていました。
ライン川の水力発電所の電力を利用して、部品製造機械を動かし、時計を大量生産ができる大規模な工場を建設することができる、と考えたわけです。
(現在のシャフハウゼンにあるIWC本社)
スイス
ちなみに、スイス時計の会社はほとんどが西部ジュネーブからバーゼルのあたりのフランス語圏にあります。
IWCは唯一ドイツ語圏にある時計メーカーとなりました。
シャフハウゼンはドイツ語圏ということもあり、住む人達もドイツ気質な人達が多く、結果的にIWCで働く従業員たちも必然的にドイツ人気質な人達が多くなりました。
そんなことも相まって、IWCはドイツ的な時計と言われるようになりました。
『ドイツ的な』とは?
◆質実剛健なモノづくり
◆シンプルなデザイン
と、言ったところがIWCの時計のドイツ的な部分になってくると思います。
質実剛健・・・ドイツはマイスター制度があり、職人の国です。
工業製品も有名で皆さんもご存知のようにベンツやBMWをはじめ、自動車も有名です。
そんなドイツは『オーバースペック』、『オーバークオリティ』と言われるような、ここまでやるの?と言われる程のスペック、クオリティを追求することが多いです。
シンプルなデザイン・・・ドイツはバウハウスに代表されるように、デザインに関しても有名な国です。
ドイツ的なデザインとは引き算のデザインであると思います。
とかく、『デザイン』と言うと何を付け足していくか?に気がいきやすいですが、引き算のデザインとは、余分なモノは何か?何を排除するか?という観点になります。
意外とコレが難しく、センスも問われます。
『あった方がいいような気がするけど・・・』と思ってしまい、なかなか余分なものを削ぎ落とすことってできないもんです。
それを見事にやっているのがIWCだと思います。
このような、スイス時計でありながら、他のスイスブランドとは異なった独自の道を歩んできた歴史のあるIWCはスイス時計の中でも特異なブランドとなったわけです。
ちなみに、もう少しイメージしやすくご説明しますと、
福井県鯖江市は世界でも有名なメガネの産地です。
メガネと言ったら鯖江、鯖江と言ったらメガネ、みたいな。
そんなニュアンスの時計版がスイスの西部地区です。
シャフハウゼンで時計メーカーを創業するというのは新潟でメガネメーカーを創業するようなもんだと思います。
そんな特異な時計メーカーIWCは時計職人養成学校も運営しています。
スイスでただ一社、民間の養成学校です。
時計職人を養成できることこそが、IWCの時計理論の信頼性を物語っていると言えます。
ポルトギーゼの誕生背景
現在、IWCのラインナップの中でも人気のあるシリーズの1つがポルトギーゼです。
シンプルなデザインのモデルでありながら、見る人の深層心理に何か訴えかけてくるようなそんな不思議な存在感のあるモデルだと思います。
Ref:325
1939年に製造されたポルトギーゼの第1世代。薄型手巻きムーブメントCal.74を搭載。
第1世代は1939年から44年(52年もしくは51年説もあり)まで製造された。生産本数は304本程度とされる。
ポルトギーゼの誕生は1930年代後半に2人のポルトガルの商人が『マリンクロノメーター級の高精度の時計を作って欲しい』という要望から生まれた物です。
当時、貿易国のポルトガル商人は海を船で渡って商売を行っていました。
広い大海原を航海するのに必要なのが正確な時刻を知らせる時計でした。
太陽の位置と時間で海図上どこの位置に自分たちがいるのかを把握しなければいけません。
そのようなことから当時の航海にはマリンクロノメーターと呼ばれるものが使われていました。
そのような時代背景の中、IWCへオーダーされたのが『マリンクロノメーター級の腕時計』というのが通説です。
出典:Wikipedia
マリンクロノメーター
機械式時計には姿勢差というものがありますが、海上においては波による揺れによって正確な時刻を表示するのが困難でした。
そこで波の影響を受けても常に水平に保っていられるようにした高精度の時計がマリンクロノメーターとして使用されていました。
ちなみに、この2人のポルトガル人というのがロドリゲスとティシャイラという人物。
ロドリゲスは、ポルトガルの首都リスボンの時計店「ロドリゲス・エ・ゴンサウヴェス」のオーナーでありました。
ティシャイラに関しては詳しい記録が残っていないということです。
なお、この話を聞くと個人的にいつも思うのは『なぜクロノメーター級の高精度時計を要求したのだろう?』ということです。
どんなに精度の高い腕時計があったとしても、当時の船にはマリンクロノメーターが搭載されていたはず。
それなのにどうしてそんなに高精度な腕時計が必要だったのか?
そもそも、精度の高い腕時計を作る為に懐中時計のムーブメントを搭載したことによって初代ポルトギーゼは当時としては大型の42㎜の腕時計となったというのが定説。
しかし、軍用目的で作られた時計では同時期にも懐中時計のムーブメントを搭載した大型の時計が作られたりもしていました。
出典:Chronos
1930年代のビッグ・パイロットウォッチ(52T.S.C)
ケース径55㎜
IWCのビッグ・パイロットウォッチもその1つ。ただ、軍用目的の時計の場合は42㎜よりももっと大きな物になっていました。
ポルトギーゼはムーブメントをギリギリ納めることのできるケースサイズで作られたのです。
しかも針などは懐中時計から転用した物がそのまま使われたことで奇しくもポルトギーゼにエレガントさを兼ね備えさせました。
つまり軍用時計のような単なる道具としての時計ではなく、身に着ける為の装飾具としてのデザイン性も持ちながら高精度の時計を目指したのだと思われます。
なぜか?
ロドリゲスは自分で身に着ける為にそのような注文をしたのか?
そうだとしたら、ロドリゲスという人物はファッションに敏感で、かつ時計に拘りを持つ愛好家でもあったような気がします。
それとも船長や自分よりも目上の人の為に作らせたのか?
船上の上でマリンクロノメーターを確認するまでもなく、ほぼ正確な時刻を手元で確認できた方が船上における重役には良かったのかもしれません。
真相は分かりませんが、個人的には当時に想いを馳せると、今のような近代的な設備のない航海において時には命の危険にさらされることがあったかもしれません。
何日間にも海の上で暮らす、長い船旅、、、、
そのような環境下において単なる道具としてだけではなく、精神的な支えともなる腕時計を欲していたのではないかと思うのです。。。
かくして誕生したポルトギーゼは1939年に市販化をされます。
しかし、大型の腕時計ということもあってか当初ポルトギーゼの市場での評価はさほど高くなかったようです。
ポルトギーゼの第1世代は1939年~1944年 キャリバー74を搭載。
その後第2世代が1944年~1958年 キャリバー98を搭載されて作られました。
その後生産終了となり、1970年代には余っていたケースを使ってジャーマンエディションと呼ばれる第3世代が100本程度作られています。
出典:Chronos
Ref:325
1944年以降、58年まで製造されたポルトギーゼの第2世代。
当時最新の高性能な懐中時計用ムーブメントCal.98を搭載する。
生産本数は最大282本から最小209本とされている。
そんなポルトギーゼが日の目を見るきっかけとなったのがIWC創業125周年の1993年なのです。
この年に発表されたのが125周年を記念して生産された限定品、ポルトギーゼ・ジュビリー(Ref:5441)でした。
このモデルはオリジナルのポルトギーゼをほぼ忠実に復刻させたモデルでした。
最近は他のブランドも“完コピ”とも呼べる復刻モデルを出すことが多いですが、このジュビリーはまさにその先駆けだったように思います。
そのジュビリーは熱狂的な支持を集めました。
そのジュビリーでの反響に手ごたえを感じたのか、IWCは1995年にポルトギーゼ・ラトラパンテを発表
↑1995年ポルトギーゼ・ラトラパンテ
そして、ラトラパンテの派生モデルとして1998年にポルトギーゼ・クロノグラフが登場します。
このポルトギーゼ・クロノグラフはデザインを変えることなく現在まで継続して作られているロングセラーモデルとなりました。
ポルトギーゼ・クロノグラフ
※現行モデル。1998年初期の頃はインデックスのアラビア数字はエンボスでしたが現在はアップライドインデックスとなっています。
またムーブメントもETA7750をベースにしたものでしたが、現在はムーブメントは69355となっています。
1998年にポルトギーゼクロノグラフが誕生して以降は徐々に人気を集めていき、
2000年にはクルト・クラウス渾身のムーブメント、キャリバー5000を搭載したポルトギーゼ オートマティック2000が登場。
ポルトギーゼ オートマティック2000
7日間のパワーリザーブを搭載。ペラトン巻き上げを採用し、初代ポルトギーゼと同じように大型のムーブメントキャリバー5000がこのモデルのサイズに必然性をもたせていました。
それ以後、ポルトギーゼのシリーズは様々なバリエーションを広げながらIWCの中でも人気の高いシリーズとなっていきました。
現在のポルトギーゼ
また、画像で見ても分かるようにケースいっぱいにムーブメントが納められており、
この時計のケースサイズは必然的にこの大きさになってしまったというのもポルトギーゼらしいところです。
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44.2㎜
3気圧防水
44.6㎜
6気圧防水
ポルトギーゼの中でも異端とも呼べるモデルがこのヨットクラブではないでしょうか。
デザインの要素はポルトギーゼなのですが、スポーティーな要素が詰まったモデルです。
ポルトギーゼはクラシカルでドレッシーなモデルという認識がある人にとってはこのモデルはポルトギーゼぽく感じないのではないでしょうか。
しかし、逆に言えばポルトギーゼ・クロノグラフやオートマティックでは何か物足りないと感じている人やもう少しアクティブなイメージのポルトギーゼが欲しいと思っている人にはピッタリのモデルだと思います。
40.4㎜
3気圧防水
こちらは2020年に発表されたポルトギーゼ。
IWCファンが永らく待ち望んでいたポルトギーゼとして発表と同時に一気に人気が出ました。
デザイン的には1930年代のポルトギーゼに最も近く、サイズ感は大きすぎず程よいサイズでありながらも全体的にはポルトギーゼらしさを損なわない大きさとなっています。
また、搭載するムーブメントCal.82200はIWCの特許であるペラトン巻き上げを採用している点も嬉しいところ。
この82系のムーブメントを搭載しているモデルで100万円を切っているのも嬉しい。
同じ82系ムーブを搭載したビッグパイロットウォッチ43が100万円以上することを考えると、この価格設定はIWCの戦略的な価格設定ではないかと思われます。
いつまでこの価格で提供してくれるのか分からないが非常にコストパフォーマンスが高いモデルであるのは間違いありません。
なお、ポルトギーゼ・オートマティック40に関してはCHRONOSの記事が非常に読み応えありますので
是非ご一読を。⇒編集長ヒロタ驚喜! 2020年の新作「ポルトギーゼ・オートマティック40」にIWCの底力を見る
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42.4㎜
3気圧防水
こちらは82系ムーブメントに永久カレンダー機構を搭載したモデル。
今までポルトギーゼのパーペチュアルカレンダーではSSケースを採用してこなかったのですが、こちらはSSケースを採用し、さらに西暦表示などを省くことで価格面でも200万円台を実現。
憧れのIWCパーペチュアルカレンダーがこの価格で手に入れられるのはファンにとっては嬉しいはず。
なお、これは好き嫌いが分かれるところかもしれませんが、このポルトギーゼは“ポルトギーゼ”というシリーズでは唯一センターセコンドを採用しています。
今まではどのようなモデルであれ、スモールセコンドだったのがポルトギーゼでした。
そのような点で考えると見た目は明らかにポルトギーゼではあるのですが、ポルトギーゼの枠を破ったポルトギーゼと言っても良いのではないかと思っています。
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41㎜
3気圧防水
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